蒲勇介 × 岩瀬千絵

蒲勇介さん、岩瀬千絵さん

岐阜県の県庁所在地の40万人都市、岐阜市を中心にした岐阜エリア。
岐阜の伝統工芸品「水うちわ」の再生をきっかけに、長良川流域にストーリーがあることに気がつき、流域をつなぐまちづくりに取り組んでいる蒲さんと、岐阜県の魅力に惹かれ「清流の国ぎふ 移住・交流センター」の相談員として働く岩瀬さん。ぎふ暮らしに関して一緒に仕事をすることも多い2人が、改めて「岐阜エリアの魅力」「岐阜の暮らしの「今」」について語り合いました。


「水」がおいしい岐阜エリア

—岩瀬さんは移住相談に来られた方に、岐阜エリアの良さをどのように伝えていますか。

岩瀬:「移住」はその土地で生活をするということ。実際の暮らしをイメージしていただけるよう、「水」のおいしさや環境の良さを最初にお話しします。例えば日本三大清流の一つ、長良川は美しい自然景観をつくり、優れた水質を保っていて、岐阜市の水道水の一部は長良川の伏流水が使われています。やはり、水が綺麗なところで生活をしたい、子どもを伸び伸び育てたいという思いはたくさんの人がもたれていますね。「40万人都市なのに水が綺麗ですよ」とお話すると、とても興味をもってくださいます。

蒲:本当に水がおいしいと思います。豊かな自然が育まれている長良川の川底には鮎が生息し、1300年以上続く伝統漁法、長良川鵜飼が行われています。しかも、昔はみんな長良川で泳いでいましたよ。地元の小学校では、川で泳ぐ授業を復活させましたが、水質基準がクリアできるのは長良川だけではないでしょうか。

左:蒲さん、右:岩瀬さん

岩瀬:長良川は「日本の水浴場88選」で唯一の河川の水浴場としても選ばれています。岐阜県全体をみると、長良川のほかにも木曽川、揖斐川など、いくつもの清流が肥沃な土地を生み、その恩恵によっておいしい農作物が豊富に採れるエリアですよね。岐阜県はほぼ日本の真ん中にあり、寒暖の差が大きいこともおいしさにつながっていると思います。

蒲:残念なことに、県外の人がもつ岐阜のイメージは「なにもない」がほとんど。地元にいる若者さえ「なにもない」と思っているので「それは違う、宝物がいっぱいの岐阜に誇りを持ってもらおう」と、15年前、Uターンと同時に地域資源の発掘に取り組みました。その時、フリーペーパー「ORGAN」の発行や伝統工芸品「水うちわ」の再生を手がけた時に、長良川が地域文化を運んでつなげた、というストーリーがあることに気がつきました。

長良川流域でつながる地域

—長良川流域のストーリーとは?長良川を核にした展開や移住者向けツアーも実施されたと聞きました。

蒲:長良川流域には流域の資源で生活をする人がいて、多様な文化が育まれています。水運によって美濃和紙や竹を運び、和傘・提灯・うちわが作られ、それらは河口まで運ばれ、全国に届けられていたというストーリーです。そこで、長良川を核にした体験プログラム「長良川おんぱく」や長良川が育んだ逸品のセレクトショップ「長良川デパート」、WEBマガジン「長良川STORY」などを展開し、岐阜の魅力、長良川流域の魅力を発信しています。これらを通して、岐阜県に移住を考える人のきっかけづくりになることや、実際に移住をされる方に誇りをもって暮らして欲しいとの思いもあります。

長良川デパートの様子

岩瀬:岐阜県では、都市部在住で移住を検討されている方を対象に情報発信をしていますが、先日、岐阜県での暮らしぶりを肌で感じていただく「東京発 清流の国ぎふ暮らし体験ツアー(1泊2日)」を実施しました。蒲さんには、長良川に携わりながら暮らしている職人さんを巡るコースのコーディネイトをしていただき、充実したツアーになりました。

蒲:今回、参加された方から感じたのは、ただ移住したいのではなく、職人になりたい、ものづくりに興味がある、ものづくり文化があるところで暮らしたいなど、幅広いニーズがあるということです。

岩瀬:普段は見られない仕事場を訪ね、工房の設備投資や暮らしのお金に関する部分まで、直接聞くことができたので、みなさん移住後のイメージがしやすかったようです。今回は若い職人さんを中心に訪問しました。和紙のアクセサリーもプロデュースする紙漉き職人さんなど、伝統をいかしつつ新しい発想で伝統産業を派生させる方法など、職人として生活していくためのリアルな事情も教えてもらいました。「清流の国ぎふ移住・交流センター」東京窓口に相談に来られる方の中には、木工芸や窯業、美濃和紙、飛騨春慶など、岐阜県内に根付いているものづくり文化を継ぎたい、携わりたいと考えている方が増えています。

蒲:伝統産業の担い手が不足していることもあるので、「ここで和紙を漉きたい」という目的があって、結果として岐阜県で暮らすのも良いのではないかと思います。そのためにも、職人さんや地域の方に会って、リアルな暮らしを知ることが大切なのだと思います。

地方都市への移住希望者が増加

—やはり、移住というと田舎や農村への憧れが強いのでしょうか。

蒲:最近は田舎、農村への移住だけでなく、岐阜エリアのような地方都市への移住がちょうどいいかも、という声が聞こえてきています。ある程度都市化されていて、大都会にはない地域コミュニティやゆとり、自然が残っている地方都市周辺を視野にいれている方も多いようです。

岩瀬:そうなんですよ。実際「NPOふるさと回帰支援センター」のデータベースをみると、地方都市移住を希望されている方が半数を超えてきています。若い方の移住希望者が増えているためか、リアルな「生活」を考えていらっしゃるようです。仕事、子どもの教育環境、医療施設、買い物のしやすさ、ホールなどの文化的施設の存在など、生活に欠かせない環境や施設は必要と考えていらっしゃるのではないでしょうか。

蒲:地方都市は移住促進対策をしていないところも多くありますが、実は高齢化が進み、農村と同じ課題を抱えている実情があります。移住先として農村、田舎を志向している人が多いのかな、と思いましたが、地方都市にもニーズがありそうですね。

地元は地域住民が盛り上げる

—岐阜エリアでの熱い取り組みはありますか。

蒲:岐阜市と言っても、私が住む「岐阜町」界隈も伝統工芸や老舗店などの魅力がありながら、高齢化や後継者不足が進んでいる地域です。私は老舗商店や寺院の後継ぎを中心に結成した「岐阜町若旦那会」のメンバーでもあり、「岐阜まち歌舞伎」を復活させたり、「岐阜町の縁日」でにぎわいを作ったりしています。「岐阜町ドリンクス」は地域の空いている町家をメンバー10人ほどで清掃して、きれいになったところで飲みながら交流会をする取り組みです。メンバーのほか、新しく店を開きたい、起業したいと考えている人と飲むことで、新しいアイディアが生まれることがあるんです。また、空き家をどうしようと悩んでいた大家さんは、たくさんの人が集まって何十年かぶりに灯りがついた風景を見たり、賑わいを感じたりすることで「この町家はまだ生きている」ことを実感できるようです。

岩瀬:近年は各務原市も地域の若者が主体になって音楽フェス「OUR FAVORITE THINGS」を開催しているなど、地域住民が地元を盛り上げようと頑張っています。このような地元のイベントや催しものから新しい動きを感じ、おもしろい町だなと思う地域が増えてきました。首都圏在住の出身者の方には地元を離れたころの印象とは違ってきていることも伝えていきたいと思います。

蒲:岐阜県全体に活気が出てきていますよね。移住される方も一緒に地域活動に参加して、「自分の故郷を自分の手で作る」ことも良いのではないでしょうか。

お試し期間で相性をみる

—実際、地域に入って「暮らして良かった」と思えるように、どんなことをすれば良いでしょうか。

岩瀬:大都市に住んでいて移住を考えている方は「故郷ふるさとと呼べる場所がない」「地元にお祭りがない」という思いがあって、下手をすると回覧板もなく、隣に住む人がどんな人なのかも知らない状態で生活をしている方もいます。そんな中で何かあった時、関わってくれる人がいることで安心したいと考える人もいます。例えば、外で働いている時に大規模災害が起きた場合でも、自分の子どもの無事を近所の方が気にかけてくれるような関わり合いです。ただ、「気にかけてもらいたい」のであれば、「自分も気にかける」。持ちつ持たれつの関係がとても重要です。
移住先には、何百年も脈々とその地に根付き、伝統や文化を大切に守ってきた方々がいます。そこに生活リズムも考え方も違う方が入り、そして地域が受け入れるのはそんなに簡単なものではありません。最初は「こんにちは。お邪魔します。」という気持ちで、何度も通うなどのお試し期間が必要です。できれば春夏秋冬、季節を変えて訪ねることをお奨めします。

蒲:試しに滞在してみるのはお互いにとってメリットになります。

岩瀬:地域とのお見合いみたいな感じでしょうか。デートを重ねて、相性が良かったら結婚してもらう(笑)。岐阜県には美しい自然、歴史、文化、伝統工芸など多種多様な資源が揃っています。岐阜エリアのような地方都市に住みたい、自然にあふれた農村地帯に住みたいなど、移住への思いをお聞きしながら、1人でも多くの方に岐阜の魅力を伝えていきたいと思います。
「この人が来てくれてよかった。」「ここに暮らしてよかった。」という声をたくさん聞きたいなあと思います。

蒲:岐阜の魅力に気が付いていない地元の方はまだまだいます。私たちも自治会レベルで取り組んで、担い手を育てていかないといけません。そのためにも、移住された方の目線でまちづくりに参加してもらえると、ありがたいですね。

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